とにかく帰りたいことを控えめに伝える。
祖母も亡くなり人間の世界に未練があるとは言わない。
けれども、あやかしだらけの幽世で暮らすなんて考えられない。
三百年前の私は、どれほどの覚悟でここに嫁いできたのだろう。
「俺は陽の世を守るという役割も果たさなければならない。ずっと幽世を離れていることが叶わない」
ちょっと待って。
私が元の世界に戻るとしたら、ついてくることが前提なの?
「お前が今、現世に戻るということは死を意味する。黒爛に襲われて対峙できる力があるのか?」
「それは……」
あるわけがない。
あの赤い目も黒い毒の羽も、どうやってよけろと言うの?
「黒爛は、天狗の中でも強力な力を持つ大天狗だ。月の世側で唯一俺とまともに争える。まあ、彩葉がそばにいて負けることはないが」
彼はあやかしは幸せを糧にする生き物だと言っていたが、私がいることで気が満ちて力を増大させるということか。