それに、いくら幽世がふたつに分かれていて対立していると聞かされても、どちらの世にいるのもあやかしに違いない。

あの神社で見たひとつ目や赤舌のような薄気味悪いあやかしと、毎日対峙していたらいちいち気絶してしまいそうだ。


「うん」


彼は苦々しい表情で短く返事をしたあと、しばらく黙り込んでしまった。

もしかして、落ちこんでいるの?

あまりに特殊な状況なので遠慮せず自分の気持ちを伝えたけれど、よくよく考えたら長年好きだった人にこっぴどく振られているのと同じ状況。

しかもその〝長い〟が、三年や四年ではなく、三百年という気の遠くなるような期間だからなおさらだ。


ひどく傷つけたのかもしれないと焦り、「あのっ」と声をかけると、彼は私と視線を合わせた。


「私、ひどいことを言ったかもしれません。ごめんなさい」


素直に首を垂れるのは、祖母に『誰かを傷つけたときは誠心誠意謝りなさい』と厳しく言われ続けてきたからだ。