「黒爛は、どうして私を?」


三百年前の私も今の私も、躍起になって命を奪おうとするのはどうして?


「それは、さっきも言ったが俺たちが幸せを糧にして強くなる生き物だからだ。幽世は、天照大御神(あまてらすおおみかみ)を祭神とする陽の世と、月読命(つくよみのみこと)を祭神とする月の世と二分されている。ここは陽の世。そして大天狗の黒爛が支配しているのが月の世だ」


ふたりは対立関係にあるということ?


「黒爛は陽の世も支配したがっていて、俺が邪魔なのだ。だから再び彩葉を得て俺の力が増大することを嫌っている」


黒爛は『邪魔されては困る』と口にしたが、そういうことだったのか。


「でも私……三百年前の私とは違います。嫁入りしろと言われても困るんです」


なんとなく話は見えたし彼の優しさは伝わってきたが、今の私は白蓮さんに恋愛感情を抱いているわけではない。

『嫁になれ』と言われて『はい』と安易に言えるはずもない。