「あの頃も幸福で満たされていたのに……お前を娶って二年。穏やかな生活に突然終止符が打たれた。お前は黒爛に襲われたのだ」
「黒爛!?」
「痛っ」


また黒爛の名前が出て、しかも襲われたとまで聞かされて、興奮のあまり上半身を起こすと、見事に白蓮さんの額と私の頭がぶつかって〝ゴツッ〟という鈍い音が響き渡った。

顔をゆがめて額を押さえる白蓮さんは、「あぁぁ」と情けない声を出している。

あんなに気持ちの悪いあやかしたちを相手に優位に戦っていた人とは思えない。


「だ、大丈夫ですか?」
「この、石頭め!」


うわっ、怒ってる……。


「ごめんなさい」
「嫁になるなら許してやる」
「なりません!」


油断も隙もあったもんじゃない。

この調子では、痛そうにしているのは演技なのでは?と彼の額に視線を移すと、予想より真っ赤になっていて、そういうわけでもなさそうだ。