にわかには信じがたい話ではあるけれど、そもそも目の前の彼が妖狐であり、ここが幽世だということが今までの常識では測れないのだから、ひとまずは素直に信じることにした。


「お前がここに嫁いできてくれて、本当に幸せだった。あやかしには彩葉ほどうまい料理を作れるものがいなくて、俺の臣下のあやかしにまで振る舞ってくれたから、皆彩葉のことを慕っていたんだ」


ずっと昔の私も、料理好きだったなんてなんだかうれしい。
しかも、幽世でも決して孤独ではなかったと知り、安堵した。

もしかしたら、今の私よりずっと幸福を感じながら暮らしていたのかもしれない。


「俺たちあやかしは、幸せを糧にする生き物だ。だから気持ちが満ちあふれていればいるほど、その力は増大し強くなる。俺は長年の修行で妖狐の中で最上位の九尾となったが、彩葉を娶ってその力はさらに倍増した」
「幸せを糧に……」


だとしたら今の私は彼の力をそいでしまうのではないだろうか。

たったひとりの家族だった祖母も失い、顔しかいいところのなさそうな黒爛に襲われるという、わりと人生のどん底を味わっているからだ。