「これから話すことを、信じるも信じないも彩葉の勝手だ。ただ俺は、真実だけを話す」


そんな前置きをした彼は、少し身を乗り出してきて私の顔を覗き込んだあと口を開いた。


「彩葉と俺は、三百年ほど前に夫婦だった」
「はっ? 夫婦?」


三百年前? ……ということは江戸時代だ。


しかも人間ではなくあやかしと結婚していたというの? 
そんなことある?

予想の斜め上を行く発言にただただ驚き、ポカーンと口を開けるしかない。


「そうだ。当時も今も、いろいろなところに出入口があり、現世と幽世は行き来できる。俺はそこを通って、時折現世に行っていた」


私が気づいた獣道がそうだったのだろう。


「その頃の彩葉も料理がうまくてね。料理屋を営んでいた彩葉のもとに通い詰めているうちに恋に落ちて、彩葉は俺が妖狐だと知っても嫁いできてくれた」


怖くはなかったのだろうかと疑問に思ったが、今、白蓮さんがそばにいても震えるようなことはない。

たとえ相手があやかしであっても、信頼していればそれで十分なのかもしれない。


「そう、だったんですか……」