祖母が大切に使っていた曲げわっぱの弁当箱の蓋を開ける。
ヒノキの白木でできているこの弁当箱は手入れが大変だが調湿効果があり、ご飯が冷めたあともおいしさを保つことができる。
「皆で仲良く食べてね。私のことは心配しないで。頑張るから」
笑顔を作りつぶやいたものの、本当は心が折れそうだった。
なんの覚悟もなくひとりになってしまい、どうしたらいいのかわからないのだ。
「また来るね」
このまま話していては涙がこぼれると立ち上がると、背後に気配がする。
お坊さん?
さっき、お経をあげてくれたお坊さんがまた来てくれたのかと思い振り向くと、そこには身長が百九十センチ近くあろうかという、とんでもなくスタイルのいい若い男性が立っていた。
白い長袖のシャツの胸元のボタンをふたつほど外し、下は黒のスラックス姿。
墓参りに来たのかな?
そう思った私は、小さく頭を下げて彼のほうに足を進めた。
そちらが出口だからだ。