「それは楽しみ……」
「ちょっとあんた! なにが楽しみだって?」


しまった。聞こえてしまった。


「雪那。鬼童丸の前だぞ」
「あら私、なにか言いました?」


白蓮さんに指摘され、コロッと豹変。
やっぱりちょろいよ、雪那さん。

でも、それが彼女のかわいいところだ。


「白蓮さん、宿屋をやっても本当にいいんですか?」
「あぁ。彩葉の生きがいになりそうだからな。その前に嫁になれ」
「どさくさに紛れてなに言ってるんですか?」


あやうくうなずきそうになったじゃない。


「ちょっと首を縦に振るだけじゃないか」
「そういう問題じゃないでしょ! えっ……」


私の隣にやってきた雪那さんが、不意に私の頭をうしろから押してくるのでうなずくような形になってしまった。


「雪那もたまには役立つな」
「今のは無効!」


慌てて叫ぶと、雪那さんは不服そうに顔をしかめる。


「白蓮さま。たまにじゃなくて、いつもの間違いですわ。この私にできないことなんてないのです」


彼女の自信満々の抗議に、クスクスと笑いが広がった。