「彩葉。その腑抜けの顔は俺以外には見せるな」
「え、腑抜け?」


そんなひどい顔だった? 

でも『俺以外には見せるな』とか、ちょこちょこ俺様発言を入れてくるので恥ずかしくてたまらない。

別にあなたのものじゃないの!


「白蓮さま、宿屋を始めるとは……」


私より先に質問をしたのは、雪那さんを隣に従えてやってきた――いや、強引にくっつかれている鬼童丸さんだ。


「彩葉の提案で宿屋を再開しようと考えている。吾郎たちも呼び戻そうかと」
「あの口から生まれたような吾郎をですか。ま、にぎやかになって楽しいでしょうけどね」


吾郎さんというあやかしはよほどおしゃべりなようだ。


「はぁ? 吾郎?」


なぜか雪那さんが落胆している。


「雪那の天敵だからなぁ」


白蓮さんが漏らすと、鬼童丸さんが含み笑いをしている。


「天敵?」
「吾郎はズバズバものを言うからね。普段俺たちが雪那に言えないことも」


白蓮さんが小声で教えてくれた。