「茶碗蒸し伝説を鬼童丸さんからお聞きしました」
「伝説? ……あぁ」
伝説と言うのはおかしいが、どうやら意味は通じたらしい。
「でも、懐かしんでしみじみなんてしないでください。これは新しい生活の始まり記念の茶碗蒸しです」
私は笑顔で告げる。
きっと彼らにとって茶碗蒸しは、大切な思い出ではあるが悲しい感情とセットになっている。
でも、この茶碗蒸しは違う。
これからの楽しい未来のために作ったものだ。
「そうか。そうだな」
白蓮さんは満足そうに微笑みうなずいた。
しかし、大好物の黒豆片手に駆け込んできた勘介くんを見て、眉を上げる。
「おい勘介。口がもごもごしてないか?」
「あっ、見つかった!」
どうやらお腹がすきすぎて、黒豆をつまんだようだ。
「行儀が悪いぞ。もう少し成長しろ。これから宿屋を始めるとなると、バリバリ働いてもらわないと困る」
ん? 今、すごく大切なことを言わなかった?
ご飯をよそう手を止めて、ポカーンと白蓮さんを見上げる。