配膳の手伝いに来てくれた鬼童丸さんまでもが、茶碗蒸しを見て神妙な面持ちを浮かべる。
皆、どうしたの?
彼は宿のあやかしたちの分のお盆を持ち、私に先立って歩き始めた。
「鬼童丸さん。茶碗蒸しって、これじゃなかったですか?」
私の知っている茶碗蒸しと幽世のそれは違うとか?
「いえ。これです」
「なんだか、沈んでません?」
私はうまくできたと思ったけど、ダメ出しされてる?
厳しいな……。
「あぁ、沈んでいるわけではありません。ただ、胸がいっぱいと言いますか」
「胸がいっぱい?」
私が茶碗蒸しを作れると思っていなかったからうれしいとか?
疑問だらけで首を傾げていると、彼はふと表情を緩めた。
「実は、前世の彩葉さまが最後に振る舞ってくださったのが茶碗蒸しだったのです」
「え……」
それで皆のリクエストがそろったの?
「彩葉さまがご健在だったころの現世は、まだ茶碗蒸しというものがさほど普及はしていませんでした。ですが、何度も作り直して私たちに出してくださいました」