「桜庵が懐かしいな」
「はい」


まだこちらに来てから日が浅いのに、もう懐かしんでいる。
けれど、大切な思い出の場所なのだからこれでいい気もする。


「河太郎のこと、ありがとう」


彼はお酒を机に置き、私と視線を絡ませて言う。


「私はおやつを作っただけです。白蓮さんが強引なのでドキドキしましたよ」


正直に話すと、彼は苦笑している。


「俺たちはこれまで、どうしていいかわからないからそっとしておいた。でも、彩葉を見ていると、それではよくない気がしたのだ」
「私?」
「そうだ。今までのやり方ではこの先十年経っても、おそらく河太郎はあのままだ。でも、彩葉は関わることで河太郎を部屋から引っ張り出すことに成功しただろう? それならば俺も遠慮せず関わってみようと」


私がしたことが突破口となったのか。


「そうでしたか。河太郎くん、あれから穏やかな顔をしていましたよ。また、膝の上で食べてくれるかも」
「今度は俺が迎えに行くか」
「お願いします」