「今日はどら焼きというものです。和花さんがおやつ作りにはまってしまって、中の餡まで手作りしたんだよ。白蓮さんに、夕飯をそのくらい熱心に作れって言われてたくらい」


少し前まではすぐに扉を閉められてしまったが、少しずつ話を聞いてくれるようになった。


「明日はわらび餅の予定なの。河太郎くん、よかったら一緒に作らない?」


恐る恐るの提案だったが、彼の眉がピクッと動いたのでもう少し押してみる。


「なにもしなくても、見てるだけでもいいのよ。勘介くんはいつも混ぜるか皿を出す係だからね。でも、つまみ食いは得意なの」


勘介くんは手伝うと言うほどなにもできないが、台所で一番楽しそうにはしゃいでいる。

なんとか〝うん〟と言わないかと畳みかけてみたものの、扉が閉まってしまった。
まだ無理か……。

でも、視線を合わせてくれるだけでも前進している。十年もの間、誰をも拒絶してきたのだから時間がかかって当たり前だ。