「だが、河太郎はそこまでたどり着けそうにない。どうしたものか」
話すことですら拒否なので、抱きしめるなんて絶対に受け入れてもらえそうにない。
でも、こうして真剣に考えてくれる白蓮さんの優しさに心が和んだ。
「私、少しずつ近づけるように努力してみます」
「あまり無理はするな」
「大丈夫です。私は好きな料理をしているだけですから」
そう答えると、彼は目を細めて微笑んだ。
おやつの時間は、翌日からも続き十日ほど経過した。
宿の人たちの器もほとんど空になってくるので、気に入ってもらえているのかなとは思う。
その中でも、河太郎くんの器が毎日空になっているのが飛びあがるほどうれしかった。
彼が食事を残さないことはまずないからだ。
しかし、感想はまだ一度も聞けていない。
「河太郎くん、おやつの時間だよ」
廊下から声をかけるとすぐに扉が開く。
以前はうつむいたまま受け取っていた彼だけれど、時々視線を合わせてくれるようになった。