「その事件があったのはいつですか?」
「十年ほど前になります」
「十年!」
あやかしと私たち人間とは時の流れ方が違う気もするが、十年もの間ろくに口も利かず、笑顔を見せていないなんて。
心を閉ざしたままの河太郎くんが不憫でたまらない。
「励ましてあげたいですけど、簡単じゃないですね」
「そうですね。河太郎が完全拒否で、ほとんど部屋からも出てきません。歳の近い勘介ならと考えて、勘介を近づけてみましたが結果は同じ。なすすべがない状態なのです」
「拒否……」
たしかにそんな感じだった。
どうしたらいいのだろう。
私はしばらく黙って考えていた。
「鬼童丸。どういうことだ?」
すると、背後から白蓮さんの低い声がした。
「もう風呂を上がられたんですか?」
鬼童丸さんが答えている間に振り向くと、お湯につかっていたせいか、白蓮さんの肌がほんのり赤らんでいる。
しかも彼の黄金色の美しく長い髪はほどかれていて、先からは水滴が滴っており、妙な色気を感じて心臓がドクンと跳ねた。