「河太郎は河童のあやかしなのですが……」
「はい。和花さんに聞きました」
「そうですか。河太郎はもともと、月の世に近い川の上流に住んでいました。あぁ、西側の窓から見えるあの川です」


前世の私が殺されたという川のことだ。
だからか、彼は小声で付け足した。


「河太郎の両親は川を美しく保つことを生業にしておりました。陽の世は天照大御神のお力のおかげで太陽の光を浴びた作物がぐんぐん育ちます。それとセットで欠かせないのが水なのです」


それは現世でも同じ。
近年は気象異常で一気に雨が降りすぎて水害が起こったり、逆に降らなくて干上がってしまったり。

それで作物がダメになったというニュースをよく耳にした。

農業には日照時間だけでなく、水もとても大切な要素だ。


「はい。よくわかります」
「大切な川を守ってくれる河太郎の両親は、陽の世でもちょっとした英雄でした」


ちびちびとお酒を口にしていた鬼童丸さんはお猪口を机に置き、苦々しい表情を浮かべる。