私は鬼童丸さんと別れて台所に向かった。

熱燗なんて口にしたが、お酒の温める温度によって香りの出方などが異なる。

気軽に口にする〝熱燗〟はお酒を五十度くらいまで温めるもので、これだと辛みが出る。
もっとマイルドな味を楽しみたいときは少しぬるめの上燗くらいがおすすめだ。

そしてアルコールが飛んでしまわないように短時間で温めるのがコツ。

もちろん私は飲まないので、これも祖母に教わったのだけど。


徳利とお猪口を持って大広間に足を踏み入れると、鬼童丸さんがうれしそうに微笑んだ。


「いい香りだ」
「幽世でもお酒を造っているんですね」


台所に見たことがない日本酒が置いてあったので和花さんに尋ねたら、現世をまねて作っているあやかしがいると聞いた。


「はい。でも、現世のものには敵わないですよ。こちらは?」
「今日は現世の本醸造です。私は飲まないので違いがよくわからないのですが、祖母に教わったおいしい温め方をしてあります」
「それはうれしいです」