志麻さんが去った宿は少し寂しくなったが、私は最近河童のあやかし河太郎(かわたろう)くんの部屋に行くことが多くなった。
勘介くんよりさらに体が小さい彼は、どうやら勘介くんより少し年上らしい。
しかし、あやかし界でいえばまだまだ子供のようだがひとりでこの宿にとどまっている。
最初は食事を運んでいっても無言で受け取るだけで二コリともせず、思いきり壁を感じていた。
「鬼童丸さん、ちょっとお茶でも飲みませんか?」
あまりに不愛想な彼がここに滞在している理由を知りたくて、宿の器を片付けたあと手伝ってくれた鬼童丸さんをお茶に誘った。
しかし、その言い方がまるでナンパだと気づき、頬を赤らめた。
お風呂に行っているはずの白蓮さんのことをナンパ師だなんて言えない。
「お茶のお誘いありがとうございます。しかし白蓮さまに命を狙われないでしょうか?」
冗談だとばかり思ったのに、彼の顔は真剣そのもの。
「命って……。お茶を一緒に飲んだくらいでそんな」