絶対に居心地のいい場所を作ってやる。

いや、違うか。幽世の居心地がよくなるのは、彼女のおかげかもしれない。
俺も宿の皆も。


「彩葉も飲むか?」
「こっちの世界では二十歳まで飲んではいけないんですよ。悪の道に引きずり込もうとする不良妖狐ですね」
「なんだそれ」


酔ってもいないのに今日の彩葉は饒舌だ。
白い歯を見せて、笑顔を弾けさせている。

こちらでの生活に一区切りつけて新しい生活に心を弾ませているのなら、うれしいのだが。

この笑顔を守るために、生きていかねば。


彩葉がふと月に視線を移すので、俺も同じように夜空を見上げた。

月のある夜もなかなかおつなものだ。酒が進む。

彩葉の両親を救えなかったという後悔はずっと背負っていくつもりだ。
しかしそれだけでなく、新しい未来を切り開いていこう。

彼女と一緒にいると、そんな気持ちが沸き上がってきた。