「祖母はとっても厳しい人だったんですけど、とびきり優しかった」
「あぁ。そしてとてつもなく器の大きな人だった」
「よくご存じなんですね」
「世話になったからな」
あのとき、ばあさんに叱ってもらわなければ、今の俺はいない。
「私、幼い頃の記憶があいまいで、多分両親の事故のことがショックで忘れようとしたんだろうと祖母は言っていましたけど、今料理を作っていたら断片的に思い出したんです」
「なにを?」
テーブルを挟んで俺の向かいに座った彼女は、真ん丸の月を見上げて口を開く。
「尻尾さんのこと。あれは単なる夢だとばかり思っていましたけど、夢じゃなかった」
俺に視線を移した彩葉は、目尻を下げて笑みを浮かべる。
「へぇ、そうなのか?」
とぼけてみると、肩を揺らして笑い始めた。
「はい。だって尻尾を握るとフニャッとしちゃうんですよ。壁のように大きな妖狐のくせして腰が砕けるみたいに」