「お料理できましたよ。窓際の席で食べましょうか?」


彩葉が幼い頃の出来事に思いを馳せていた俺は、彼女の声で我に返った。


「おぉ。腹が減った」
「祖母のド定番と白蓮さんの好物を用意しました。だし巻きたまごとほうれん草の胡麻和え、あとは桜庵風チキン南蛮!」


これほどの料理をあっという間にこしらえてしまうのだから、彩葉は本当に器用だ。

和花に作らせると、同時進行はできないらしく一品ずつ順に作るので、すべてができる頃には最初の料理は冷めている。


「彩葉のだし巻きたまごは本当にうまい」


畳の席に移り座卓に並べられた料理を見て漏らす。


「おばあちゃんに徹底的に仕込まれたんですよ。溶けるようなふわふわ感を出すのは意外に難しくて」


料理をしているときの彩葉の表情は本当に柔らかい。料理が好きなのだと伝わってくる。


「ばあさんにも食わせてもらったな、だし巻きたまご」


俺は叱られたときのことを思い出しながら、しみじみと言った。