ばあさんはふと口元を緩めた。


「どんな形であれ、彩葉にはこれ以上苦しむことなく成長してほしいんです。今日お出しする食べ物はすべて食べてくださいね」
「えっ？」


予想外のことを言われて、目を瞠る。


「お客さんが元気でないと、彩葉はどうするんですか？　また眠れない夜を繰り返さなければなりません。彩葉を巻き込んだのなら、守ってください」


ばあさんの叱責に目頭が熱くなる。

鬼童丸と話をしていて、いっそ自分がいなくなれば彩葉は幽世という世界に左右されることなく平穏に暮らしていけるかもしれないという考えが頭をよぎったが、それではただ逃げているだけだ。

彼女と出会ったことは決して消せない事実だし、消したくもない。
今度こそ俺が守るべきなのだ。


「揚げ出し豆腐もいただけますか？」
「はい、もちろん」


ばあさんが用意してくれている間に、だし巻きたまごを口に運んだ。
最初にガツンとだしの味が口に広がるこのたまごの味は生涯忘れないだろう。