「彩葉は不思議な子でした。幼い頃から時折窓の外を眺めてはボーッとするのが習慣で。おっとりした子なんだろうと話していましたが、いつもなにかを探しているようでした」
「探して……」
「絵本を選ばせても、おもちゃ屋に連れていっても、狐にくぎ付け。あの子の両親と冗談でお稲荷さんの神遣いなんじゃと言っていたくらいでした」


もしかして前世の記憶がうっすらと残っているのだろうか。


「そんなわけないと思っていましたけど、事故のあと『尻尾、尻尾』と泣くのを見て……」


ばあさんはその先を口にしなかったが、俺をじっと見つめていた。
俺が人ならざるものだと確実に気づいている。


「彩葉は泣き叫ぶことも少なくなり、食事も口にしてくれるようになりました。それはすべてお客さんのおかげだと感謝しています。ですがもし、お客さんが彩葉になんらかの役割を与えたのだとしたら、あの子が元気に育つようにきちんと責任を取ってください」


強い口調でとがめられ、言葉を失った。
その通りだ。


「とんでもないこと言ってますよね。でもあの子、なにか運命のようなものを背負って生まれてきたんじゃないかって。まるでおとぎ話ですけど」