それから幽世は鬼童丸に任せて、俺は常に彩葉の近くにいた。

黒爛が俺の不在をいいことに、陽の世の一部を月の世に取り込むべく動いていると報告を受けても、気もそぞろだった。

俺の頭の中は彩葉でいっぱいだったのだ。


しかし、彼女の強い悲しみを近くで感じていると、両親を守ってやれなかったという自責の念にさいなまれてますます食欲がなくなり、彩葉に注意できる立場ではなくなっている。

ばあさんは、俺が尻尾の持ち主であることに薄々気づいているが、下手な勘繰りは入れてこない。

彩葉が元気を取り戻すならそれでいいと思っているようだった。



しかし、そんな生活が半月くらいした頃、いつものように桜庵で酒を頼んだのに、出されたのはだし巻きたまご。

もうすっかり客足が遠のき、俺ひとりしかいないので、注文を間違えたということはない。


「いや、あまり食べる気が起こらなくて」
「どんな事情があるかはお聞きしません。でも、彩葉をずっと以前からご存じなのでは? だからこんなに親切にしてくださる」


鋭い質問に目が泳ぐ。