通い始めて一カ月。
その日も他の客は帰ってしまい、俺だけになった。


俺も帰るべきかもしれないと考えたが、店は客がいなくては成り立たない。
ばあさんは、彩葉を育てるために店を再開したのだろうからおそらく金が必要だ。

幸い現世で金を稼ぐあやかしがいて、幽世で家族を守ってくれるからという理由で俺に提供してくれるので、それをありがたく使わせてもらうことにした。


まだ最初の料理を食べきれていないのに、ばあさんに追加の料理と日本酒を出してもらったとき、再び彩葉がすさまじい勢いで泣きだした。


「行ってあげてください」
「ごめんなさい。あの子、尻尾、尻尾とわけのわからないことを言ってずっと泣いているんです」


そう言い残して奥に入っていったばあさんのうしろ姿を呆然として見つめていた。


「尻尾……」


もしかして彩葉は事故のときのことを覚えているのか?