「お待たせしました」
「ずいぶんさっぱりしているな。本当によかったのか?」
「はい。ずっと苦しかったんです。クラスメイトが両親のいない私に過剰に気を使ってくれていたのは知っていてありがたかったんですけど……。なんていうか腫物扱いで、同じ土俵にはのせてもらえなかったなーと」
彼女は校舎を振り返り、じっと見つめる。
「私は普通に振る舞っても、ことあるごとに気を使わせて気まずい雰囲気にもなるし、かわいそうって言われるのに疲れちゃった……」
かわいそうと言われれば言われるほど、そうじゃないよと虚勢を張っていたんだろうな。
「おばあちゃんが死んじゃってからは、もうかわいそうでいいやって割り切ったら、今度は笑っている意味がわからなくなって。あー、私って面倒ですね」
彩葉は自嘲しているが、両親の死からよくここまで踏ん張ってきたと思う。
「まだまだ甘いな。俺なんて三百年も彩葉をあきらめきれずに待ち続けた面倒な男だぞ」
「ほんとだ。最高に面倒なあやかしがここにいる!」
彼女がようやく弾けた笑顔を見せるので、俺の頬も緩んだ。