カウンターを挟んである厨房は狭く、人がひとり立てばすれ違うのも大変だが、祖母はこの中を動き回っていた。


そして私はカウンターの向こうで、座敷席のお客さんの注文を聞いて運ぶのが主な仕事だった。そうしているうちに料理を覚えていった。


私は久しぶりに桜庵の厨房で料理を始めた。

いつもは二階で弁当を作るが、懐かしくなったのだ。


年季の入ったヒノキのまな板は包丁のあたりがよくとても使いやすい。
祖母が手入れを怠らなかったおかげで、ずっと現役だ。

弁当の残り物が朝食になるのだが、口に入れても味気ない。


「こんな味だったっけ……」


祖母に教えてもらった通りに作っているはずなのに、味がよくわからない。

祖母が亡くなってから、なにを食べてもおいしく感じられなくなってしまった。


結局、少しだけ食べて弁当を詰め、私は家を飛び出した。