「はー、このにんじんは食べられます」


野菜嫌いの勘介くんが、みずから進んで手を伸ばすのは初めてのことだ。


「よかったー」
「彩葉。好き嫌いするヤツには食わせなくていいから」


白蓮さんのひと言にギョッとして勘介くんの箸が止まった。


「勘介。俺の言うことは絶対だからな」
「そんなぁ……」


がくんと肩を落とす彼を見て、鬼童丸さんが笑いを噛み殺していた。

勘介くん、あなたの体を心配した白蓮さんの親心なのよ。

もう少しうまい言い方をしてあげればいいのにと思うが、これが白蓮さんなのだ。


彼は私にも時々イジワルな言葉を吐くものの、それにはすべて理由がある。
しかし、言い方が言い方なので、なかなか気づけない。


自分たちの食事が済むと、宿の器を回収に向かう。
私が志麻さんの部屋の前まで行ったとき、ちょうど扉が開いた。


「今日もおいしかったです。ごちそうさま」
「お口に合ってよかったです」