「はっ!」
まただ……。またあの夢を見た。
飛び起きて壁にかかった古ぼけた時計を見ると、朝の七時十分。
繰り返し見るこの夢は一体なんなのだろう。
「あっ……」
私はあることに気がついてハッとした。
あのもふもふの毛皮、白蓮さんの髪の色とそっくりだ。
いや、でも私を包み込むあれはもっとふさふさで柔らかくて……言うなればなにかの尻尾のようなものであって、決して人の髪ではない。
「偶然よね。おばあちゃん、おはよ」
朝一番にするのは、仏壇に手を合わせること。
「もう天国についた?」
どうせなら、一緒に連れていってほしかった。
弱気になってしまうのは、おはようというあいさつを返してくれる相手すらいなくなったという寂しさからだ。
「ダメだ」
そんな気持ちを抱いたら、祖母が悲しむ。
祖母は私を生かすために桜庵で必死に働いてくれたからだ。
私は自分を奮い立たせて、一階の店に向かった。