鬼童丸さんは、私がまだ行ったことのなかった二階の西のほうへと進む。
年月を感じる廊下ではあるが手入れが行き届いていて味がある。
彼は立ち止まり、窓を開け放った。
すると風が入ってきて、私の髪を揺らした。
「ここ、ボーッとするには最適なのですよ」
「暖かいですね」
「天照大御神のご加護をよく感じられる場所です」
高台にあるここはとても景色がよく、あやかしの街を一望できる。
陽の世一の大きな街は、かなりの数のあやかしが生活をしているとか。
「現世に帰りたいですか?」
「……はい」
いきなりの直球にたじろいだものの、素直にうなずいた。
「そりゃあそうですよね。白蓮さまもよくおわかりになっています。『嫁ぐつもりも、守ってもらうつもりもありません』とガツンと言われたと落ち込んでいらっしゃいました」
「あ……」
ここに来たばかりのとき、遠慮なく言い放った覚えはある。