「なにごと?」
私の声が聞こえたのか、雪那さんまで顔を出す。
しかし説明している暇はない。
「和花さん。申し訳ないけど、もう一度大根をおろしてくれる?」
「は、はい」
固まっていた和花さんがようやく動き始めると私は男の子の隣に行き、片づけを手伝い始めた。
「彩葉さま、私が」
「鬼童丸さん、ここはお任せいただけませんか? 大きな男の人ふたりに追いかけられたら怖いと思うんです」
「しかし……」
彼は白蓮さんにチラリと視線を送っている。
「もう悪いことはしないわよね?」
男の子に念を押すと意気消沈した様子の彼はコクリとうなずいた。
これが演技ではないと信じたい。
「鬼童丸。彩葉に任せてみよう」
白蓮さんがそう言うと、鬼童丸さんは渋々離れていく。
彼をうっとり見つめる雪那さんのほうへ。
「私は彩葉というの。きみの名前は?」
「豆吉(まめきち)」
ぼそりとつぶやく彼は、どうやら反省しているらしい。
黙々と片づけをしている。