――「来ないで」


無数の手が私に向かって伸びてくる。

私は拒否を示しているのに、その手は増えるばかりで逃げても逃げても埒が明かない。

しばらくすると追いつかれて、そのうちのひとつの真っ黒な手が私の首を容赦なくつかんだ――。



「嫌っ!」


大声で叫び、勢いよく体を起こす。


「彩葉!」


するとすぐに障子が開き白蓮さんが入ってきて、焦るように私の傍らまでやってくる。
そして行灯を灯した。

どうやら夢を見ていたらしく、周りにはなにもいないし首もつかまれてはいない。

さっきお風呂で黒爛のことなんて考えたせいで、怖い夢を見たのかもしれない。


「どうしたんだ?」
「夢を……。たくさんの手に追いかけられて、首を絞められる夢を……」


夢だとわかっても、黒爛に襲われた記憶があるので体が震えてきて、自分で自分を抱きしめる。


「そうか。あんなことがあったばかりだから無理もない」