この宿には大風呂があり、しかも温泉。

宿屋をしていたころは、垢なめというあやかしの栄さんが管理していたのだとか。

このお湯は体を芯から温め肩こりや筋肉痛を癒し、さらには傷の回復に役立つらしい。
私の首や頬の傷が比較的早く回復したのは、この温泉のおかげかもしれない。


広い岩風呂にひとりで浸かり、ボーッと考え事をする。

それにしても……。
こちらに来てからあっという間に時間が流れていく。

あれから黒爛を見ることはないが、今でも私の命を狙っていると思うと身震いする。

まさか、ごく平凡に生きてきた自分がそんな目にあうなんて考えたこともなかった。


「あああ、もう!」


黒爛のことを思い出すと、気が滅入る。
こういうときは眠ってしまうのがいい。

私は風呂を出て自室に戻ったあと、すぐに布団に潜り込んで目を閉じた。