雪那さんのおねだりをあっさり却下した彼は、私の耳元に口をかざす。


「志麻が彩葉さまと話をしたいそうです」
「鬼童丸さま、なにをお話になっているんです?」


キーキー声の雪那さんを放っておいて、鬼童丸さんはそそくさと二階へ上がっていってしまった。

またしても雪那さんににらまれる羽目になった私も勘介くんと別れて、志麻さんの部屋に足を向ける。


「彩葉です」


声をかけるとスーッと扉が開き、「どうぞ」と中に促されてびっくり。
こんなことならお茶でも持ってくればよかった。

小さな座卓を挟んで座ると、彼女から口を開いた。


「ありがとうございました」
「へっ?」


まさか頭を下げられるとは思っていなかったので、変な声が出る。


「鬼童丸さまに叱られました。お前はいつまで拗ねているのだと。私……月の世に住むあの人に、一緒になりたいのなら白蓮さまを殺してこいと言われて……。渡された短刀を忍ばせてここまで来ましたが、怖くて震えてしまって。そうしたらすぐに鬼童丸さんにつかまって」