とはいえ、初めて会った彼に話すことではないのは心得ている。

でも、なぜか懐かしさを感じる彼にすがりつきたくなった。


「事故は……。そうだな……」


途端に眉をひそめた彼は、『事故』と口にした。


「どうして両親の事故のことをご存じなんですか?」


私は亡くなったとだけ告げただけでしょ?

やはり、以前に会っているのかもしれない。
でも、思い出せない。

白蓮さんは質問には答えず、その代わりにすくっと立ち上がり私の目をじっと見つめる。


「間に合わなくてすまなかった」
「えっ……」


どういう意味?


「彩葉」


あれっ? 
私、この声で名前を呼ばれたことが遠い昔にもあるような。


「黒爛はおそらくまたやってくる」
「そんな……」


あの殺気を思い出すと緊張が走る。

どうしてこんなに怖いめにあわなければならないの?


「助けてやるから、俺の嫁になれ」
「は?」


緊迫した空気が漂っていたのに、そのひと言で吹き飛んだ。