「これから志麻さんにお化粧をします。って、私もしたことがないから不安なんですけど」
「は?」
今日のために白蓮さんに頼んで、現世から化粧品とメイクのやり方が載っている雑誌を手に入れてきてもらった。
買い出しに行ってくれるあやかしも、化粧品や雑誌を買うのは初めてだったらしくかなり迷ったらしい。
幽世にも化粧品らしきものはあるようだが、それほど普及はしておらず簡単には手に入らないとか。
「それじゃあ始めますね。まずは下地から」
雑誌を見ながらのつたない化粧だが、絶対にきれいにするという意気込みだけは十分だ。
手順を確認しながらファンデーションをのせたところで、雪那さんが顔を出した。
「面白いことしてるじゃない」
遠慮なくずかずかと入り込んできた雪那さんが微かに笑みを浮かべると、志麻さんは「ふん」とそっぽを向いている。
けれど志麻さんがおとなしく化粧されているのは、さっき鏡の中の自分に見入っていたことと関係がありそうだ。