「違います。その男ですよ。彼女は助けに来てくれるのを待っているんですよね」


尋ねると、彼はうなずく。


「そうだろうな。でも志麻は、助けに来るはずがないことにも気づいているんじゃないか。だまされたという事実と向き合いたくないのだろう」
「それじゃあ、志麻さんから会いに行って決着をつけたら?」


きちんと別れていないから、気持ちを引きずっているような気がする。


「それは許さなかった。のこのこ会いに行ったら命がない」
「その男に殺されるとでも?」
「そうだ。俺の殺害に失敗したのだからもう志麻に用はない。月の世はそういうところだ」


鬼童丸さんが、白蓮さんは彼女を守っていると言っていたのは、そういうことか。


「はぁ、ムカつく!」


なんなのよ、その男。
思わず本音が出た。


「まったくだ。助けに来るというほんのわずかの可能性にすがっている志麻が不憫だな」


殺されそうになった彼が言うことでもない気はするが、その通り。考えれば考えるほど腹が立つ。

難しい顔をしていると、彼に肩をトンと叩かれた。


「彩葉が悩む必要はない。さて、勘介が腹減ったと叫んでいそうだから、飯にしよう」
「はい」


胸のもやもやは晴れないけれど、とりあえず食事にすることにした。