「はい。ご心配をおかけしました」
「いや。お前の心配をするのが俺の仕事だ。さて、飯か……」
ようやく立ち上がった彼は、同じく立ち上がった私の背中をそっと押して促した。
私の心配をするのが仕事?
家族がいなくなって孤独だと思っていたけれど、まさかそんなことを言われるとは。
心に温かいものが広がっていく。
「宿のあやかしにも作ってくれたそうだな。疲れてはいないか?」
「大丈夫です。お料理するのは楽しくて。あっ、お客さんにかなり細い女性がいましたが……彼女は?」
鬼童丸さんに聞きそびれた彼女について尋ねた。
「あぁ、志麻(しま)のことか。彼女は天深女(あめのさぐめ)という鬼のあやかしなのだが、月の世のあやかしにだまされてね。俺に手をかけろとこの宿に送り込まれたのだ」
命を狙われたというのに、彼が平然とした顔で語るのが信じられない。
具体的になにがあったのかは知らないけれど、私たちの世界なら殺人未遂で逮捕されるところだ。