「抱きつきたいらしいな」
「はいっ?」


勘介くん、なんと伝えたの?

ニヤリと意地悪く笑う彼は「好きなだけどうぞ」と両手を広げているが、私は頭が飛んでいきそうなほどブンブンと首を横に振った。


「ほほー。勘介は嘘をついたのか。お仕置きをしなければ」
「違いますよ!」


お仕置きなんて言い始めるので焦る。


「それなら抱きつきたいのだな?」
「それも違う!」


大きな声で全否定したが、少し乱れた着物の襟もとから見える鎖骨が視界に入り、不自然にそらした。

抱きつきたいなんて言うから、彼の肌の温もりを思い出したじゃない……。


「なんだ。照れなくてもいいんだぞ。でも……元気でいい」


私をじわじわいじめていた彼が、ふと目を細めて言うのでハッとした。

そういえば私、笑ったり怒ったりと忙しい。

祖母を亡くした上に黒爛に殺されかけるという壮絶な経験をしたわりには、気持ちが沈んではいない。