「勘介くんは宿の人たちのお皿を出してね。私たちはまた大皿でいいかな」


本当は全員でワイワイガヤガヤ言いながら食べたら楽しそうだが、お客さんにまでそんなことを押し付けられない。


「和花さんは肉じゃがを盛っていってね」


祖母が教えてくれた肉じゃがは、バターが隠し味。
最後にバターを加えると、ぐんとコクが出ておいしくなる。

品数も多く、しかも大量にこしらえたので昼よりずっと時間はかかったが、なかなかうまくできたと思う。


「おぉ、すごいな」


そこに鬼童丸さんがやってきた。


「和花に聞いて、宿の客には温かい料理を提供すると伝えてあります。運ぶのを手伝いましょう」


私たちは一人前ずつお盆にのせて、厨房を出た。

すると、目の前に立ちふさがったのは雪那さんだ。

鬼童丸さんと肩を並べて歩く私を、穴が開きそうなほどの強い眼力で見つめている。
いや、にらんでいる。

さっき、和解しなかったっけ?


「鬼童丸さま、お手伝いしますわ。彩葉さまは勘介たちとどうぞ」


無理やり私たちの間に体を割り込ませてきた彼女は、私の手からスッとお盆を持っていく。