「できないのに台所志望ってすごいのね」
「それだけ食べ物に執着があったんですよ。それで白蓮さまが他をあたるようにと話されたのですが、大食らいの野槌は働き以上の食料を食べつくすので大変だと嫌厭されるらしくてかなり落ち込んでいて……」


いろいろ事情があるのね。


「それで、彩葉さまが仕事が見つからないとかわいそうだと言って引きとめられて。皿洗いとか配膳とか調理外のお仕事をしてもらうことになったのです」


私が引きとめたのか。
前世の私はなかなか気が利いたらしい。


「そうだったの」
「はい。この宿で働くと箔がつくと言うか……。やはり白蓮さまの近くで働けるというのは名誉なことで、宿をたたんだあとの仕事探しはすんなりいったはずですよ」


白蓮さんのすごさというのがいまいちわかっていないけれど、こうした話の端々でそれを感じる。


「そっか……」