さあ、死神列車を探しに出かけよう。

唇を噛みしめ、グッと前を向いた。カラカラ──と最小限の音に抑えられるように努力し、窓を開ける。

靴のことは何も考えていなかったが、私の視線の先に、お母さんが洗濯物を干すのに使っているクロックスが目に入った。私はそれを借りることにし、外に出た後、窓を元通りにそっと閉める。

最寄り駅は、ここから徒歩十分もかからないくらいだ。

クロックスを履いた私は、そそくさと庭を出て、駅を目指す。補導なんかされたらたまったもんじゃないから、常に周囲には警戒しながら足を進めた。

肌を掠める夏の夜風は冷たいとは言い難く、肌に纏わり付くようにぬるい。それでも日中よりは随分とましで、大量に汗をかいてしまうということはない。

淡々と駅に向かう私の脳内は、例の列車のことばかりで占められていた。

……どうか、どうか。辿り着いたその先に、眩い光を灯す列車が現れますように。私をこの世界ではないどこかへ、連れて行ってくれますように。

願うのは、そんなことばかり。

そうこうしているうちに駅に着いた私は、改札を静かに抜ける。当たり前だが、ここに人の姿はない。ただ、私だけが息をして存在している。

静寂に包まれる暗闇の世界で辺りを照らすのは、数本の街灯と、夜空に散らばる星屑たち、それから月明かりのみ。

……ああ、やっぱり私は一人ぼっちだ。

誰もいない空間は、簡単に私を孤独へと突き落とす。そこから早く逃れたくて、……ううん、私のことを傷だらけにしたこの世界自体から逃げたくて。

半ば懇願するように、私は線路の先を見つめる。

息苦しさもない、恐怖もない、そんな未来がもしも待っているのなら。私はそっち側へと手を伸ばしたい。

「……お願いします」

両掌を合わせ、口から小さくこぼれ落ちた言葉は、とても強い私の意志そのものだった。

私は固唾をのみながら、じいっと一点を見つめるばかり。条件は満たした。噂の死神列車がこの世に存在するならば、現れてくれるはず。

──その時。私の視界に、確かに明かりが宿った。

「え……?嘘でしょ……?」

思わず一歩、後退りをする。

いくら列車が来ることを願っていたとしても、実際にその光景が目の前に存在したら、人間は動揺してしまうらしい。

でも、確かに光は見えているのだ。眩い明かりを灯した列車が、徐々にこっちに近付いている。

それから数秒後。キーッとレールが軋む音を立てながら列車はスピードを落とし、私の待つホームに停車した。