結月はきっと、私がどんな気持ちでこの一言を伝えたのか知らないでしょう?
もう二度と会えない、大切な人が消えようとしているこの瞬間を、黙って見ていることしかできない自分。もどかしくて苦しくて、つらくてたまらない。
ほら、笑って。ねぇ、私。ちゃんと笑ってよ。
必死に自分自身に言い聞かせて、それっぽく見えるように目尻を下げる。目の奥が熱い。
それでも私は微笑んだ。
じんわりと込み上げてくる雫が溢れ落ちないように。……彼が、安心して旅立てるように。
「……やっぱり、」
やわらかな風が、私たちの間を通り抜けた。
「七海の笑った顔はすごく可愛い」
そして、彼はそう一言だけ落とすと。
「それじゃ、また帰ってくる時連絡するよ」
と言い残して、颯爽と改札の向こう側へ消えて行ってしまった。
私は今結月に言われたことを理解するのに精一杯で、頭の中がぐしゃぐしゃにこんがらがっている。
だって、〝可愛い〟なんて。過去で結月とこの瞬間を過ごした時には、一言も言われなかった。普通に手を振って、さよならをしただけだった。
そんなの反則だよ、結月。
忘れちゃったじゃないの。
結月に、ありがとうって伝えるの。
いつも助けてくれてありがとう。出会ってくれてありがとう。……恋する気持ちを教えてくれて、ありがとう。
結月への感謝を全て持て余すことなく伝えるのは難しかったかもしれないけれど、ほんの少しは伝えられるかなって、そう思っていたのに。
「ゆ、づき……っ」
未だにじんわりと火照る頬を両手で抑え、ゆっくりと瞼を伏せる。
堰を切ったように溢れる涙は、止まることを知らない。私は、彼と過ごした日々を思い出していた。