その時がもうそばまで狭まっているのを、私は肌で感じていた。
そしてそんな私の気持ちを分かっているかのように、結月は申し訳なさそうに眉を下げた。
「じゃあ、そろそろ行かなくちゃ」
一息置いて押し出された言葉は、なんて切ないのだろう。胸の中心が、槍でツン、と貫かれたように痛い。
前に結月を見送ったあの時は、こんなにもどかしくてつらい気持ちじゃなかった。結月が死ぬなんて微塵も思ってもいなかったから、明るく笑顔で〝じゃあね〟って手を振った。
そして結月も、笑っていた。
……今日と、何も変わらない穏やかな笑顔で。
あの時と、今この瞬間。繰り返されている時間は同じものなはずなのに、私だけが違う。ただ一人、私だけがこの後結月に起きる真実を知っていて、私だけが今にも泣いてしまいそうだ。
「七海?」
結月の姿を目に焼き付けるかのようにじいっと結月を見つめていたら、不思議そうな顔になった彼が首を傾げた。
「どうしたの?七海」
優しく問われたけれど、なんて言っていいのかも分からない。ただ、結月が私の目の前からいなくなるのが嫌なだけ。
思わず結月の右手に手を伸ばしそうになって、慌ててそれを自分で制止した。
結月のことを困らせるのは、違うと思ったから。
「……ううん、何もないよ」
「本当?何か言いたそうな顔してたと思ったんだけど」
「もう、本当になんでもないって。……結月、気をつけて行くんだよ」
「まあ、それならいいんだけど。うん、ありがとう。また明日には帰ってくるから、お土産待っててよ」
表情を綻ばせた結月はそう口にすると、自分の横に置いていた小さなキャリーバッグの持ち手を握った。