他になにもいらない。結月が生きて、旅行から戻ってきてくれたら。こうして私の隣にいて、やわらかな笑顔を見せてくれたら。
それだけで、いいのに。
「七海?」
ボーッと考え事をしていた私の顔を覗き込みながら眉を下げた結月は、少し不安そう。私が急に無口になったのを心配しているのだろう。
「ごめんね。何が欲しいか真剣に考えてたら、どっかにいっちゃってたね」
「本当だよ。急に黙るから、どっか調子でも悪くなったのかと思った」
「うん、ごめんね」
小さく謝罪の言葉を述べた私に、結月は「いいよ」と笑ってくれた。
私も彼に合わせて、そっと頬を緩めてみる。そうすれば、少しでも自分の気持ちを落ち着けることができるような気がして。
「……で、欲しいものは決まったの?」
「んー、そうだなあ」
「え、あれだけ悩みに悩んでおいて、まだなの?」
結月がそう言うのも無理はない。
でもね、結月。どれだけ自分の〝欲しいもの〟を考えてみても、結月しかでてこないんだよ。
私はやっぱり、結月に生きていて欲しかった。結月の未来が、閉ざされることのないものであってほしかった。
けれど、欲しいものを聞かれて、〝結月〟なんて答える勇気は今の私にはないから。
「……キーホルダー」
「キーホルダー?」
「うん。かわいいキーホルダーが欲しい」
臆病な私が即座に思いついたのは、キーホルダーだった。結月は私の返答を聞くと、口角を上げてにんまりと笑う。
「分かった。七海に似合いそうなもの買ってくるから、待っててよ」
その結月が選んでくれるであろうキーホルダーが、私の手に渡ることは二度とないのになあ。……なんて、すぐにマイナスなことばかり考えてしまう自分に呆れながらも、私は結月の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。
人よりも少し茶色く、綺麗に透き通った色。水晶体の向こう側には、私の顔が少し歪んで映っている。