「……もう、なんでもないから。それより、なに?私の名前呼んだじゃん。なにか言いたいことがあったんじゃないの?」

もう顔を上げてしまえ、……と少しやけになりながらも顔を上げた私。その先には、ゆるりと微笑む結月の姿があって。

不覚にも、〝やっぱり私の好きな人はかっこいいなあ〟と、胸を踊らせてしまう。

私の言葉を聞いた結月は、「ああ、そうだそうだ」と、あたかも今言いたいことを思い出したように目を細めると。

「昨日、なにかお土産買ってきてあげるから楽しみにしててって七海に言ったでしょ?それ、なにがいいかなあって。せっかく買ってきても、七海の欲しいものじゃなかったら嫌だし」

と、私の表情をちらちらと伺いながら言葉を押し出した。前はこんなこと聞かれなかったけれど、答えなんてひとつに決まっている。

「……結月がこれだって思うものでいいよ?」

私は、それで十分嬉しい。

結月が私のために選んでくれた。その事実があるだけで、きっと結月からもらったものは私にとっては輝かしいほどの価値があると思うから。

そう思って、結月に笑顔を向けたのに。

「いや、でもさ、やっぱり七海が心から喜んでくれるものをお土産に選びたいから。大まかなくくりでいいから、なにが欲しいか教えてよ」

彼は頑なに、私の欲しいものを聞きたがる。

こうしてふたり話している間にも、私は忘れてはいなかった。結月がもう、亡くなっているという事実を。

例えば今ここで私が欲しいものを考えて口にしたって、結月がそれを購入して私に渡すことはもうできないし、私が品を受け取ることもできない。

結月はもう、存在しない人間なのだから。

そう思えば、どう考えたって私の欲しいものはひとつしか思い浮かばなかった。

今の私が、心の底から欲しいと願うのは。

……結月、だ。

物じゃなくていい。私は、結月がいい。