「……大丈夫ですか?」

私自身もよっぽどひどい顔をしていたのか、そう問いかけられたけれど。

「はい、大丈夫です」

私は強く頷くことしかできない。これを乗り越えなければ、その先はないから。

「分かりました。では、僕についてきてください」

無言で立ち上がり、車掌さんの後ろをついて行く。あっという間に扉の前にきた私は、横にいる彼の方にちらりと視線をやった。

「あなたがこれから向かう記憶は、中学二年生、十四歳の八月です。対象の人物は、田島結月くん。列車を降りたあとは、そのまま駅内の椅子に腰かけて待っていてください」

「分かりました」

「それと、改めてもう一度だけ、お伝えさせてください。……過去を変え得るような行動や言動を行おうとした場合、身体が一時的に制御されます。過去はあくまで……」

「──過去、ですよね。大丈夫、ちゃんと分かってます」

車掌さんの言葉に被せるように自分の声を表に出した。交わる二人の視線。車掌さんはじいっと私を見つめていたけれど、しばらくしてそっと目元を緩めた。

分かってくれたのだと信じたい。過去は過去であり、もう決して変えることのできないものなのだと、私が必死に受け止めようとしていること。

「それでは、あなたがまたこの駅に来る頃にお迎えに参ります」

結月を実際目の前にしてみると、自分がどうなってしまうのか。それは私にも分からない。

結月にもう一度会える嬉しさと、未来の結月の運命を知っていてやり過ごさねばならない苦しさと。何もできない、もどかしさと。様々な感情が今でさえごちゃごちゃしているのだから、当人を前にしたら……。

ううん、それでも私は、結月に会いに行く。会って結月に伝えたい。小夜と同じように、私が笑顔でいられた理由の中に、結月がいたんだってことを。

プシュ、と空気が抜けるような音を立ててドアが開く。

ゆっくりと深呼吸をして、グッと顔を上げた。その視線の先には、十四歳の私の過去が待っている。

車掌さんに見送られながら列車を降り、改札をくぐった。そこからすぐに視界に入ったのは、結月と最後に座って話した席。