『急なんだけどさ、どうしても行きたい場所があって。一泊の予定だからすぐに帰ってくるけど。七海にも、なにかお土産買ってきてあげるから、楽しみにしてて』

そう言って、はにかんだ結月。

行きたい場所をさらりと聞いたが、彼は教えてくれなかった。私も強くは聞けず、『気をつけてね』と言うことが精一杯。

その翌日、旅行に行く電車に乗る前の結月と待ち合わせをして少し話してから、結月を見送った私。

「……っ、」

その時の彼の表情を思い出そうとしたその時、頭の片隅が、ズキンと強く疼く。痛い。あまりに鋭い痛みに、目を閉じたまま思わず顔をしかめた。

……やっぱり、私は。

この深い後悔と、傷だらけの過去を背負ったまま。いつまでも忘れることはできない。

だってあの日、私が結月を『いってらっしゃい』と送り出した、あの日の夜。結月は、──


──帰らぬ人となったのだから。



「……間もなく、列車が駅に到着します。停車駅は、皆様の二つ目の記憶です。列車が到着しましたら、立ち上がらず、その場でお待ちください。順番にご案内させていただきます」

痛む頭を抱えてきつく唇を噛み締めたとき、車内にアナウンスが流れた。

そうか、もう到着してしまうのか。

列車に乗っていた時間はだいぶ短く感じたが、それはきっと、私が結月のことを懸命に考えていたからだろう。

汽笛が鳴ったのを合図に少しずつスピードを落とす列車。ゆっくりと伏せていたまぶたをあげれば、長い間光とは離れていたからか、蛍光灯の刺激ですら眩しい。

静かな列車内で車掌さんが現れるのを待ちながら、私は一生懸命頭の中を整理していた。

「……七海さん」

それから数分も経過していないような気がする。車掌さんの声が耳に届いて、慌てて俯けていた顔を起こすと、彼はいつの間にか私の前に立っていた。

「お待たせいたしました」

車掌さんは相変わらず穏やかな笑みを浮かべている。けれどやっぱり、結月の未来を知っているからなのか、その瞳の奥は少し切なげに揺れているように思える。