無意味に喋るものもいない静かなこの空間は、決して心地の悪いものではない。次の目的地に着くまでに結月のことをゆっくりと思い出し、心の整理をすることができる。

ふうっと息を深く吐いて、まぶたを伏せる。その裏側に浮かぶのは、結月の顔。

……田島、結月。

彼は、私の幼馴染みだった。幼稚園の頃、私の母と結月の母が意気投合し、仲良くなったのをきっかけに、私たちはよく互いの家に招かれていたらしい。

その時のことはあまりよく覚えていないけれど、確かに物心ついたときには、〝ゆづきゆづき〟と、私の世界に結月のいる生活が当たり前になっていた。それは小学校に上がってからも変わらず。

人とコミュニケーションを図るのが苦手だった私と、活発なスポーツ少年でいつも友人の真ん中にいた結月。結月はいつも私の手を引いて、私が周りの人たちと話せるきっかけを作ってくれていたのを今でも覚えている。

結月と学校が離れ離れになったのは、私たちが中学へ上がったときだった。結月が、学区内の中学ではなく、スポーツの強豪校である私立の中学に進学したのだ。

そうなれば、いつも友達との繋がりを保ってくれていた結月はもう私の学校生活からいなくなったわけで。私は本当の、一人ぼっちになった。

……それでも。

自宅からの通学だったこともあり、結月はいつも私に会いに来てくれた。部活が休みの日は家にきて、友達のいない私の話し相手になってくれた。そしていつの日からか。

私は結月に、恋をしていたことに気付く。

片思い。伝えるつもりもなかったし、この気持ちは一生自分の中に閉じ込めておく。結月に迷惑はかけたくないから。その一心で、私はこの恋心をぎゅ、と胸の奥底に押し込める覚悟を決めた。

そして月日は経ち、中学二年生、夏──。

夏休みも後半に差し掛かった頃だった。結月から、『明日、少し遠くへ旅行に行ってくる』と告げられたのは。