それが、自分の中で少し引っかかっていたのだ。

車掌さんは私の話を聞いた後、それを説明するべく口を開いた。

「僕の説明不足だったのですが、あくまでこの過去の世界は、あなたのためにあるものです。つまり、……うーんと、あなたと、その対象人物が話す空間を再現するために作り出された世界、ということで。ばっさり分かりやすく言ってしまえば、あなたと対象人物以外の人間は、あなたの過去の世界では必要ない、と」

「……私の都合のいいように、過去の世界は動いているってこと?」

「そういうことです。だから、七海さんが駅へ向かえば、その間、過去の世界の電車は一旦ないものとなる。利用客も。だって利用客がいたり、通常の電車が行き来していたら、七海さんが〝死神列車〟に会うこともできませんからね」

なんか小難しい話だ。頭の中がごちゃごちゃと掻き乱されるように、様々な情報が入り込んでくる。

でも、なんとなくは理解できた。

あくまでこの不思議な出来事は、私があの世に行くための儀式のようなもの。つまり、全てが私自身のためだけに起こっている。だから、私に関係していないものたちは排除されてもよいということだ。

私に合わせて、都合のいいように過去の世界は回っている。よくよく考えれば、分からない話でもない。

「……分かりました」

私は私なりになんとなく解釈することができた。

もともとはそう、死ぬために、この非現実的な出来事を経験しているのだ。だから、全部が全部、理解しようとしなくてもいい。ただ言われたことをこなしていれば、あの毎日から逃げ出せるのだから。

「次は、いつの記憶でしょうか」

もう何度目かも分からない覚悟を決め、車掌さんの顔をグイッと見上げる。彼は手元のファイルに視線を落とすと、指で一点をなぞった。恐らくそこに、次の行き先が記してあるのだろう。

ゴクリと生唾をのむ。行き先を告げられるのは二度目だが、かなりの緊張感だ。じわりと、額に汗が滲むのも感じた。

「七海さんが次に向かうのは、中学二年生の夏の記憶、ですね」

「中学二年生、夏……?」

「はい。正確には、八月です」

行き先を伝えた車掌さんは、ふう、と小さく息を吐く。